【教育の専門家に聞く】保育士の管理職に必要なマネジメントとは

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保育士や幼稚園教諭の管理職は、職員の指導や施設の運営など、さまざまな責任が求められる重要なポストです。自身のキャリアパスを思い描く中で、「自分に管理職が務まるだろうか」と悩んでしまう方もいるのではないでしょうか。今回は、国立大学の教育学部で学生の指導を行う傍ら、幼児教育のキャリアアップ研修で講師としても登壇しているJ先生にインタビュー。管理職を目指す保育士や幼稚園教諭に伝えたい、幼児教育の重要性や必要なスキルについてお聞きしました。

子どもを健全に育てる鍵は幼児教育

国立大学の教育学部で学生の指導を担当しているJ先生は、もとは中学校の教員だったそう。

中学校でのキャリアは38年間におよび、学年主任や生徒指導などのミドルリーダー、教育行政への異動を経て、最終的には校長までを経験しています。

そんなJ先生が、なぜ幼児教育の研修会に登壇するようになったのでしょうか。

そこには、中学校の教員時代に感じた“ある想い”が関係しているのだとか。

 

――中学校教員だったJ先生が、幼児教育に関心を持ったきっかけは何だったのですか?

私はかつて、中学校で生徒指導の担当をしていました。

当時、問題行動や不登校などの困難を抱える子ども達を見てきて、「これは中学校だけの問題じゃないな」と気づいたんです。

そのころから保幼小中の一貫教育や連携について考えるようになり、子ども達を健全に育てるためには、0歳からの教育が重要だと知ったのです。

そうして幼児教育に関わる機会が増えていき、中学校の退職後は保育園や幼稚園の研修会に呼ばれるようになりました。

保育現場における管理職の役割

――校長までをご経験されたJ先生から見た、保育園や幼稚園における管理職の重要性についてお聞かせください。

最近、8050問題という言葉をよく聞きますよね。

人生の出発点をきちんとしていかないと、学生時代に不登校だった子達がずっと社会に適応できなくなってしまう。

管理職には、そこまで見通した視点が必要です。

卒園させて終わりではなく、“この時期に最低限つけてあげられる力はないか”ということを考えなければいけない。

▶8050(はちまる・ごうまる)問題とは?

80代の親が、引きこもっている50代の子どもの世話をする必要があるという社会問題のこと。
子どもは親の年金を頼りに生活しており、就労も困難であるケースが多い。

また、職員を束ねる能力も必要です。

乳児から幼児までを預かる保育士や幼稚園教諭の責任は重大で、日々の勤務も大変です。

職員は精神的・身体的に疲弊しているかもしれない。

管理職はそこに寄り添い、しっかりとマネジメントしなくてはなりません。

>>>あわせて読みたい「保育士の管理職|仕事内容やメリット、管理職になる方法を紹介」

保育士の管理職に必要なマネジメント力とは

――保育現場に求められるマネジメント力とは、具体的にどのようなものでしょうか。

管理職に求められるマネジメント力は大きく分けて3つあります。(中央研修の講師の話がヒント)

カリキュラムマネジメント 保育・教育内容の質を高めること
スタッフマネジメント 職員の質を高めること
スクールマネジメント 経営の質を高めること

そして、これら3つのマネジメントを成功させるためには、以下の4つの資質が必要です。

子ども達を理解する力

危機対応能力(リスクマネジメント・クライシスマネジメント)

職員を教育する力

コミュニケーション力

――これらのスキルは、どのように身につければよいのでしょうか。

『保育求人ラボ』のコラム記事にもノウハウが満載ですが、そういうものに目を向ける時間や気持ちが大切ですよね。

“学びに意義を感じる力”も管理職には必要です。

さらに、研修や現場での経験を重ねることも重要ですね。

管理職が人に何かを伝えるときに必要なのは“根拠”です。

わずかな経験だけで「あの子は○○だよ」なんてことを言っても、説得力がないですから。

>>>あわせて読みたい「保育に必要なリスクマネジメントとは?重要性と対策について」
>>>あわせて読みたい「保育士はコミュニケーション能力が重要!ポイントや磨き方を紹介」

管理職の言葉には根拠が求められる

――説得力を持たせる“根拠”について、具体例を教えていただけますか。(ここでいう根拠とは、法令・心理学・脳科学などです)

では【❶子ども達を理解する力】を例に挙げて説明しましょう。

0歳~2歳で基本的信頼関係ができる

中央研修によると、子どもは0歳から2歳で母親との基本的信頼関係ができるそうです。

それが土台となり、その上に主体性や活動性がピラミッドのように積み重なる。

母親からの愛着をしっかりと受けて基本的信頼関係ができると、安心してハイハイしたり、立ち上がったりして、いろんな危険なところに向かっていけるのです。

私が教わった中央研修の講師は「あえて止まっている子がよい子ではなく、動き回る子の方が安心感を持てている子なのだ」と教えてくれました。

信頼関係を土台に子どもは成長する

2歳から4歳に上がると、主体性と活動性が上がります。

このとき、土台に信頼関係があるため、しつけができるようになります。

そして4歳から6歳になると適応性や社会性ができる。

つまり、次に出会う人――父親や地域の人、幼稚園や保育園の友達――に適応したり、対応したりできるようになるのです。

私はこれを“しつけのピラミッド”と呼んでいて、正式名称ではありませんが、あえてインパクトのある言葉で職員たちに伝えてきました。

信頼関係は保育士や幼稚園教諭でも築ける

中央研修で私は「6歳までにこのピラミッドができていない子は、もうだめでしょうか」と質問したんです。

すると「このピラミッドは20歳まで続く」という回答が得られました。

そのため、不幸にも母親を失ってしまった子どもでも、保育士や幼稚園教諭、学校の先生と代償的に基本的信頼関係を作って、しつけを受け、社会性・適応性を伸ばせば、もう一度ピラミッドが作り直せるのです。

ピラミッドは20歳まで続く

文部科学省の『情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会報告書』には、以下のように記されています。

子どもたちの対人関係等を作るのに適切な愛着が非常に重要

子どもが安定した自己を形成するには他者の存在が重要

情動の原型は5歳で作られる

情動のピークは8歳でピークを迎えて、それが20歳まで続く

情動というのは喜怒哀楽のようなもので、自分の心情や感情の動きのことです。

この報告書の内容は、先ほどお伝えした「ピラミッドは20歳まで続く」という内容と結びつきますね。

私は職員たちにいつも「子ども達が20歳になるまでは、私たちでピラミッドの土台を作っていける。だから頑張ろう」という風に伝えてきました。

主観的な話をしても、部下は耳を傾けません。しかし根拠に基づいていれば、説得力があるのです。

>>>あわせて読みたい「保育士と子どもの信頼関係は重要!信頼関係を築く方法や注意点」

保育現場が直面する課題と解決方法

――マネジメントの観点から、幼児教育の現場が直面している問題にはどういったものがあるとお考えですか。

保育現場の課題

最近、不適切保育に関するニュースが報道されることがありますね。

これは単に「やってはけない」と言うだけでは解決しない問題だと思っています。

問題解決には、職員の対応や考え方も重要ですが、子どもたちの多様性も念頭に置く必要があります。

発達障がいや発達課題のクリアが上手くいかない子どもなど、さまざまな要素が絡み合っているのです。

こうした課題を解消するためには、職員の教育や体制の見直し、そして子どもたちの個別のニーズに寄り添う保育環境を整えることが求められます。

現在の保育園の配置基準では、4歳児以上になると保育士1人に対して30人もの子どもを担う必要があります。

管理職はその大変さを理解しなければいけません。

>>>あわせて読みたい「保育士の行き過ぎた指導とは?不適切保育の実態と原因・対策など」

課題を解決する職員への接し方

――やはり管理職が現場を理解しなければ、職員たちの気持ちはついていかないですよね。

例えば「不適切保育をしたらいけない」「それは体罰になる」と口で言うのは簡単ですが、それだけでは不十分です。

ここで管理職の方々に身につけていただきたいのは、解決志向アプローチです。

その対極にあるのが問題志向アプローチですね。 

問題志向アプローチ
今問題となっている部分(不得意、苦手な部分など)に焦点を当て、改善していこうとする手法。
「ミスをなくすにはどうしたらよいか」を考える。

解決志向アプローチ
今できている部分(得意、役立っている部分など)に焦点を当て、さらに伸ばしていこうとする手法。
「今の自分をプラス1点でも伸ばすために、何ができるか」を考える。

例えばゆで卵を半分に割ったとき、黄身が子どもの問題点で、白身が子どものできる部分だとします。

黄身をなくそうという考え方が問題志向アプローチなのですが、これは非常に難しい。職員の指導となるとなおさら困難です。

一方で解決志向アプローチは、白身の部分を伸ばしてあげると、白身が膨らんで黄身が薄れてくるという考え方です。

リフレーミングの考え方で、子どもや職員のよいところ(できているところ)に視点を向けたら活路が見出せます。

>>>あわせて読みたい「新人保育士はどう育成すればいい?大切にしたい指導のコツとは」

保育現場の管理職が目指すべきマネジメント

――管理職の接し方次第で、園の雰囲気は大きく変わるのですね。

私がマネジメントをする上で最も大切にしているのが、ミドルアップダウンマネジメントです。

管理職が判断や決定をして部下に指示するのがトップダウン、現場の職員に決定権があるのがボトムアップ、そしてミドルリーダーが管理職と現場の架け橋となるのがミドルアップダウンです。

ミドルリーダーは園長などトップの指示を現場に伝えると同時に、現場の意見をトップに伝えます。

現場の職員は動きやすくなり、主任クラスからいきいきとしてきますよ。

ミドルアップダウンマネジメントのメリット

職員が相談をしやすくなる

トップからの指示が伝わりやすい

仕事を任された職員が全力で動ける

管理職が職員を束ねやすくなる

管理職はやりがいのある仕事

――最後に、保育士や幼稚園教諭の管理職を目指す方々に、メッセージをお願いします。

昔に比べて、子どもや職員の多様性は上がっているため、日々マネジメントしている管理職の方々は大変だと思います。

私自身も管理職時代に苦労しました。ですが、非常にやりがいのあるポストでもあります。

私が中学校の教員時代に教えていた生徒はもう50代になるのですが、今でも飲みに行く仲です。

中国の管仲の言葉に「教育は国家百年の計」というものがあります。

教育の成果が現れるのは何年、何十年と先のことだという意味です。

保育園や幼稚園で育てた子どもが大人になってから活躍してくれることが、保育者や管理職にとっての1番の宝物ですね。

これから先、そういった宝物がたくさん待ち受けているため、そこを目指して頑張ってください。

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